フリー素材で振り返る 初めての献血
初めて献血に行った。
写真がないので、フリー素材を使いながら無理やり振り返ります。
仕事を早くあがって池袋を歩いていたら、献血の看板を持った男性を見かけた。
「注射をしたらジュースやお菓子をもらえるらしい」
献血についてこれくらいの知識しかなかった僕だが、山車を引いたら駄菓子をもらえる地域のお祭りみたいで、前からとても興味はあった。
(お祭りが好きだ)
ビルの三階が献血ルームだというので、エレベーターに乗って行ってみると、そこは広い、おしゃれなカフェのような空間だった。
そこで、たくさんの人が雑誌を読んだりスマホをいじったりしながらお菓子を食べている。
気だるい雰囲気も相まってなんだか正月の実家のようであった。
でも空間はおしゃれ。
(流石に寝てる人はいなかったが、限りなくそれに近い雰囲気だった)
受付で住所と名前とか、最近海外旅行に行ったか、薬は飲んでいないか、とお金のある老人の世間話のような問診を経て、血圧を測ったり検査の注射をしたり、番号を呼ばれるまで待ったり、荷物をロッカーに入れたり、献血についての動画を見たりした。(よく覚えてないので順番はバラバラである。)
検査の注射の時、看護士さん(という呼び方でいいのかどうかも分からない。無知。)に問診票を見ながら
「ご自分の名前を言ってください」
と言われたが、あれは僕の意識がしっかりしているかどうかの確認だったのだろうか。
ちゃんと言えてよかった。
(ちゃんと言えてよかった)
直前の食事から時間が経っているので、採血前にしっかりカロリーを摂っておかなくてはいけないらしい。
「なるべくたくさん、食べられるところまで食べてください」
と言われたが、なるべくも何も喜んで全部食べた。
(ぽそぽそをこぼさないように抱え込んで食べた)
全部食べて呆然としていたら、名前を呼ばれて、歯医者さんで座る椅子のようなものに座らされて、採血が始まった。
注意事項の書類が色々置いてあったので読んでいたら、
「献血の針はとても太いので〜〜」
という表現があって急に怖くなった。
(急に怖くなった)
今更だが、注射は別に好きではない。
どちらかと言えば嫌いである。
どうしようどうしようと思っていたら、看護師さん(っていう呼び方でいいのだろうか)が上手だったのでいつの間にか針が刺さってて採血が始まっている、という状態であった。
でもやはり採血中は「刺さってる…!」という感じがして落ち着かない。
ごろごろしながら読んでやろうと雑誌を持ってきたんだけどそれどころではない。
空を見つめながら慣れない感覚と戦っていると、採血している方の手に、暖かいタオルを渡された。
(こんなんじゃなかったけど)
とにかくタオルを渡された。
なんでも、僕の手が冷たくて、血がうまく流れて来ないらしい。
何だ。大丈夫なのか。
何だ何だと思っていたらもう一人看護士さん(注射をしてくれる人なので看護士さんって呼んでいます)が来て、お腹にも暖かいタオルをくれた。
「今日寒かったからねー」
優しい。
「血管が恥ずかしがり屋さんなのねー」
とも言われた。
僕は自分の血管の性格なんて考えたこともなかった。
毎日採血をしていると血管も擬人化できるのだ。
確かに僕も仕事で使うパソコンに話しかけたりすることがある。
(動きが遅い時にエンターキーバンバン押しながら「がんばれー」とか言う)
暖かいタオルのおかげで無事採血が終わって、血液を循環させる体操を教えてもらって、待合室に戻った。
もっとふらふらしたりするかと思ったが、案外平気だった。
昼寝しすぎて頭が痛い、という程度の違和感が後頭部にあるぐらいであった。
(このぐらいの表情をしていたと思う。ご飯は関係無い。)
終わったらアイスを食べろと言われて木のスプーンを渡された。
食べるなと言われることはいくらでもあるが、アイスを食べろと言ってくれるのは献血ルームの看護士さんだけなのではないでしょうか。
(アイス食べた。カップアイスだった。)
言われた時間休んで、外に出ると、すごく清々しい気持ちがした。
お菓子を食べてごろごろしていただけなのだが、とてもいいことをした気がした。
そういえば看護士さんに、ことあるごとに「ありがとうございます」と言ってもらっていた気がする。
とんでもないとんでもないと言いながら食べろと言われたアイスをむしゃむしゃ食べているのである。他にどんな徳を積めばそのような環境にいられるのでありましょうか。
とにかく良いことをしたような気持ちになったので誰かにひけらかしたくなった。
池袋を行き交う人々に
「僕、献血したんですよ」
と話しかけるわけにもいかない。
もどかしいなあと思っていたら、「献血」と書かれた看板を持った呼び込みのおねえさんとすれ違った。
「僕、さっき献血してきました」
本当に言いそうになったが、反射的に言葉を飲み込んだ。
飲み込めた。よかった。