初めての一人居酒屋 所感
前に家の近くの居酒屋で飲んだ「レモン漬けハイボール」が、もう一度飲みたくてしょうがなかった。
甘くて飲みやすくて後味が酸っぱくて爽やかで、料理にもよく合った。
もう一度飲みたい、という気持ちが臨界点に達した時、たまたま周りに誘える人間がいなかった。
ならばもう一人で行ってしまおう。
飲みたい飲みたいと思いつづけるのには飽きたのだ。
もういっそ一人で行って後悔したほうがましだ。
という経緯で家を出ました。一人で。
出たはいいが、店の前まで来て踏みとどまった。
混んでいる。
賑わっているのだ。
(イメージです)
踏みとどまって通り過ぎてしまった。
そしてそのまま通り沿いのカレーうどん屋でビールでも飲もうか、ラーメン屋にしようか、とぼんやり歩いていたら隣の駅まで来てしまった。
(イメージです)
駅前は賑わっていて、行き交う人や広告や看板が、一人で飲もう、という自分をことごとく見下しているように見えた。
どいつもこいつも誰かと楽しそうに歩いているように見えるのである。
はじき出されるようにして来た道を戻り、ここで一人で牛丼とか食べてしまった日には立ち直れないような気がして、予定していた居酒屋に入った。
時間が経って空いていたらいいなと思ったが、特に賑わいに変わりはなかった。
「一人です」
とそっと口を動かすとカウンターへ通された。
カウンターの、少し離れたところに人がいて「仲間が!」とすごくホッとしたのだが、よく見たら二人組であった。
人間は見たいものを見るものだ、と誰かが言っていたなあと思った。
座った椅子のすぐ後ろはテーブル席になっていて、すごく盛り上がっていた。
近い。
女子もたくさんいる。
盛り上げに水を差していないかすごく心配になる。
ここで、ほぼ部屋着で店に来てしまったことに気づく。
おしぼりとお通しをもらって、飲みたかったレモン漬けハイボールを頼む。
お通しが美味しい。たくさん歩いたからである。
ハイボールも美味しい。
思っていた味である。
でも緊張しているので初めて飲んだあの時とは随分感触が違う。
なんで部屋着で来たかなあと思う。
(お通し全部食べてから写真撮った 緊張している)
酢モツを頼む。
酢モツとはなんなのか、よく分かっていないのだが、一人で飲むのに相応しいおつまみである気がする。
暖かい。
すごく美味しかった。
酢モツの酢はポン酢の酢なのだな、と思う。
あしらってある細かいネギを一つづつ丁寧に食べる。
飲み会でこういうことをするとケチな人だと思われそうだが、今日はむしろこれが善業である。
そういえば頼んだ食べ物を自分一人で抱えて食べられることがもう貴重である。
ここで店が混み始めた。
「すみません」という声が飛び交う中、同じ音量で「すみません」といけるわけもなく、ずーっとメニューを眺めていた。
頼むもの、もう決まってるのに。
この「底力○日本」は「そこぢから」なのだからローマ字表記は「SOKOJIKARA」じゃないんじゃないかなあ、でも「ぢ」のローマ字ってなんだろうなあ。
そうか、「JAPAN」の「J」とかけてるから敢えて「J」なのか、そうかそうか。
とか、飲み会ではあり得ないくらいの長い時間ぼーっとすることができた。
尻に細かい振動を感じる。
これは、ここの店員、客、すべての人々が作り出す無意識のエネルギーだ。
僕は今、休日の賑わいを一身に受け止めているのである。
そういえば、酢モツが来てから前を向いていない気がする。下ばかり向いてメニューを見たり箸の箱を見たりしている。
いたたまれない雰囲気ではあるがそれが逆に気持ち良くなってきた頃、店員さんと良いタイミングで目があって、念願のオーダーをすることができた。
ウーロンハイである。
このウーロンハイがとても濃くて、「部屋着で下ばかり向いているし、これ飲んで帰りなさい」というサインなのだろうか、と邪推してしまった。
餃子である。
熱くて美味しかった。
酢モツから大分時間が空いたので、美味しさも倍増である。
あと、何か店員さんが必要以上に優しい気がする。
そしてラーメンである。
飲み会でこういうものはとても頼みにくい。
「俺これ食うけど、どう?」とか言って根回しして、「ラーメンを食う集団」を演出してからでないと到底オーダーできないメニューである。
この日は思う存分ラーメンを食べることができた。
部屋着で。
全部食べた。
ラーメンの後半でなんとお一人様が来店して、今度こそ仲間が!と思ったのだが、その男の人がおしゃれで(ジャケットを着ていた)、七輪を使って肉などを自分で焼くタイプのメニューに行けちゃう猛者だったので、余計に恥ずかしさが増した。
ラーメンを食べ終えたところでお会計をお願いすることにした。
ふと立ち上がると、店員さんがレジで満面の笑みと共に待っていてくれた。
やはり必要以上に優しい気がする。
外は寒かったが、たくさん食べたので心強かった。
「食事」という行為以上の達成感を感じることができた夜でした。
あと、カウンターは厨房が近くて暖かかった。
あれで寒かったら死んでいたかもしれない。